「はじめの一歩」
今でこそご家庭の冷蔵庫の中にはチーズがある事も珍しくはありません 飲食店のどの業態でもチーズを使ったお料理の一品がありますし、和食店や蕎麦屋さんでもパスタフィラータタイプのイタリアチーズのご用命があります。今日では日本人にとってチーズは普通にお子様からお年寄りまでが召し上がる食品のひとつです
昨今の世界情勢の影響下で日本においても乳製品の価格高騰など食料供給の不安定な状況が続くところです。今からおよそ7000年前に人類がチーズと出会ってから今日までの度々の苦難の時代にも人はチーズを「良質なタンパク質を含み栄養価の優れた保存食」として育み、利用してきました。
1400年程前には日本にも「蘇」として大陸からチーズが伝来されたといわれていますが
天皇への献上品であり薬用としての宮中での使用にとどまりました。
明治期の酪農振興策を起点として、やがて国内でのプロセスチーズの製造がはじまりますが、関東大震災や開戦の煽りで牛乳、乳製品製造への制約を受けてしまいます。
そして戦後復興から1970年大阪万国博覧会開催がひとつのターニングポイントとなって高度経済成長の波とともに「ナチュラルチーズ」という日本固有のカテゴリーを旗印にして国内チーズ市場の夜明けを迎えたのです。
弊社が輸入チーズの加工販売を始めたのもこの時代でした。海のもの山のものともつかぬ状況での「はじめの一歩」は先ずは「チーズとは何か?」という疑問でした
そうして当時の弊社取締役 諏訪勇が手にしたのがこの1冊の本でありました。
-チーズ博士の本- 農学博士 仁木 達著 地球社 初版発行 1974年10月11日
序章 チーズ礼讃
チーズは平和的な食べもの。相手の生命を奪わない食べものに、乳と蜜と果物があります。その中でいちばんすぐれている乳、その乳からつくられた製品の中で最高級のものがチーズです。 ※本文巻頭より
著者:農学博士 仁木 達氏は雪印乳業の技術研究所所長を務められた方で、近代のチーズ市場の黎明期において国産チーズ製造の立場からその普及に尽力された方です。
この本が初版刊行された1974年当時の日本国内でのチーズ消費量は一人当たり年間0.4kg程度で、そもそもプロセスチーズを含む統計ですから、ナチュラルチーズとなると記録にもならないほどだったと思われます。(2011年の統計ではフランスが一人当たり年間消費量26.2kgで世界第一位、日本は2.2kg)
仁木 達博士をはじめとする当時の酪農産業の関係者の方々がナチュラルチーズを広めようとされた熱意こそが今の日本におけるチーズ人気をもたらす「はじめの一歩」であったことは言うまでもないことです。